本記事では、
- 重ね葺きの工事内容、費用相場、工期の目安
- 重ね葺きが最適な場合、そうでない場合
- 顧客に重ね葺きを勧める業者の本音
について、リフォームが初めての方向けに解説を行いました。
先に結論から言ってしまうと、重ね葺きは工事費用を安く抑えるかわりに、その後のメンテナンス費用が高くなる工事です。
また、せっかく工事をしても屋根の老朽化やキズそのものは直らない工法でもあります。
そのため私たちは、重ね葺きはどうしても予算が足りない場合以外には、あまりオススメできない工事だと考えています。
どうしてそのような結論になるのか?
また、重ね葺きの他の選択肢にはどのようなものがあるか?
今からご説明していきたいと思います。
「屋根工事の種類」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「屋根工事は8種類!工事内容、費用相場、日数、業者選び…全て解説します」
- 重ね葺きは、「葺き替え」より安価なかわりにデメリットが生まれる工事
- 重ね葺きは、屋根・外壁どちらの場合でも、予算が厳しい人のため「代替手段」と捉えるべき
- 他の手段を説明せず、重ね葺きだけを積極的に勧めてくる業者には注意
重ね葺きとは?
「重ね葺き」とは、主に屋根に対して施工される、リフォーム工事の一種です。
工事内容は、既存の屋根の上に、新しい屋根材を張る作業となります。
別名を「カバー工法」といい、こちらの呼称を用いる業者もいます。
項目 | 詳細 |
---|---|
工事内容 | 今の屋根の上から、新しい建材を張りつける |
費用相場 | 100~140万円(屋根) 130~180万円(外壁) |
工期 | 約5日間 |
工程 |
|
重ね葺きの工事内容
重ね葺きの工事内容は、既存の屋根の上に、新しい屋根材や外壁材を張る作業となります。古い部分の上に重ねて新しい部分が作られるため、“重ね葺き”という名称が付けられています。
重ね葺きの工期と工程
- 作業用の仮設足場を組む
- 周囲を養生(保護)する
- 既存の屋根の上にルーフィング(防水シート)を張る
- ルーフィングの上に新しい屋根材を張る
- 屋根棟、軒先、雪止めなど付帯部分を施工
- 仕上げ後、完了(約5日間)
屋根の重ね葺きに必要な日数は、約5日が目安です。
工事中、家に出入りできなくなったり、使用できなくなる部屋が発生することはありません。
重ね葺きと他の工事の違い
重ね葺きに対して、古い部分を完全に解体・撤去をしてから、新しい部分を作る工事を「葺き替え(ふきかえ)」といいます。
重ね葺きと葺き替えの違いは古い屋根の解体・撤去があるかないかことです。
古い屋根を撤去しない重ね葺きには「廃材が出ない」「総作業費が安くなる」「工期が短縮できる」というメリットがあります。
反対に、デメリットとしては「古い部分の劣化が直らない」「家が重くなる」などがあります。
結局、重ね葺きとはどのような位置づけ?
重ね葺きは、工事費用を安く済ませる代わりに、下地を直すのをあきらめる工事です。
葺き替えでは、既存の屋根や外壁を剥がすので、下地に異常があれば気づいて直すことができます。しかし、重ね葺きでは下地を直接見る機会がないため、異常が進行していたとしても発見することができません。
費用や所要日数でメリットを得る代わりに、安心面でリスクを負う工事と言えます。
重ね葺きの費用相場は?他の工事よりどのぐらい安い?
重ね葺きの特徴は、他の工事にある古い部分の解体・撤去作業が発生しないことでした。では、その違いによって費用はいくらぐらい安くなるのでしょうか?
葺き替えとの差は「約10~25万円」
屋根の重ね葺きの工事費用は、「150~180万円」です。
一方、屋根の葺き替えは160~200万円ですから、重ね葺きのほうが約10~20万円安くなる計算になります。
屋根葺き替え(張り替え)の費用相場について詳しく知りたい方は、下記記事もご覧ください。
重ね葺きで安くなる金額は「1,300円×施工面積」
重ね葺きで省略できる作業は、「既存の屋根材の撤去」です。この分の作業費が不要になるぶん、安くなります。
屋根材の撤去費用の相場は、「1㎡あたり1,300円」前後です。
一般的な、30坪・屋根面積80㎡の住宅であれば、葺き替えではなく重ね葺きを選ぶことで、10万4,000円リフォーム費用が安くなります。
「屋根工事の費用」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「屋根修理の費用相場はいくら?雨漏り、台風、瓦の修繕…部位・トラブル別に全解説」
>>「屋根葺き替えの費用はいくら?工事のメリットデメリット、屋根材の選び方」
10~20万円の節約を選ぶか、安心を選ぶか
本章では、重ね葺きを選択することで費用面では「10~20万円」安くなることがわかりました。一方で重ね葺きには、住宅の下地を直せない・チェックできないというリスクもありました。
10万円の節約をとるか、建物を根本から修理できる安心をとるかが、重ね葺きを選ぶかどうかの分かれ目である、と言えそうです。重ね葺きのメリット
「重ね葺き」と「葺き替え・張り替え」の違いについて、費用面以外も含めてもっと詳しく見ていきましょう。まずは「重ね張りする」「解体・撤去作業がない」ことで、重ね葺きに生まれるメリットを分析します。
メリット① 工事費用が安い
前述のとおり、工程が少ないことで作業人件費が抑えられ、リフォーム費用の総額も安くなります。 節約できる金額は、平均的な大きさの住宅の場合約10万円です。
メリット② 工期が短い
工程が少ないことで工期も圧縮でき、リフォームが早く終わります。短縮できる日数は約3日間が目安です。
参考:屋根工事の種類と標準的な施工日数
- 屋根の葺き替え:6~8日間
- 屋根の重ね葺き:5日間
メリット③ アスベストの処理費用が不要
アスベストを含む屋根を、葺き替えでリフォームする場合、アスベストを含まない場合に比べて20~50万円の追加費用がかかります。
しかし重ね葺きを選べば、撤去作業がなく、アスベストが飛散するおそれがないため、アスベスト入りの建材でも、追加費用を発生させずにリフォームすることができます。
アスベストが含まれている可能性のある素材
- 【屋根材】スレート(カラーベスト、コロニアル)
- 【外壁材】石綿含有金属系サイディング、繊維強化セメント板
- いずれの場合も、2005年「以降」に建てた家であれば問題なし
アスベスト繊維には人体への有害性が指摘されており、2004年に使用や製造が法令で禁止されました。最終的な判断は、ハウスメーカーに問い合わせるか、国交省・経産省が作成した石綿含有建材データベースで確認をおすすめします。
「アスベストのリスクと対処」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「アスベスト含有住宅の見分け方3つを徹底解説!リスクや除去方法まで知っておこう」
メリット④ 家の断熱性・遮音性が上がる
重ね葺きをした屋根は、古い部分と新しい部分の二層構造になるため、屋外の「暑さ・寒さ」や「雨音」などが室内に伝わりにくくなる効果が期待できます。
ただし、本格的な断熱工事や遮音工事に比べると、効果はごく少ないでしょう。
重ね葺きのデメリット
続いて、「重ね張りする」「解体・撤去作業がない」ことで発生するデメリットを分析します。
デメリット① 下地が直らない、チェックできない
重ね葺きは、新しい屋根材をかぶせるだけの工事なので、既存部分のキズや経年劣化が直せるわけではありません。
例えば、もし屋根の下地が腐り始めていた場合、重ね葺き完了後も劣化が進行し続けてしまいます。
デメリット② 以後の修理やリフォームが高額になる場合がある
重ね葺き後に雨漏りなどが起こった場合は、修理や再リフォームの金額は通常よりも高くなります。
なぜならば、屋根や通常よりも一層多く重なっているわけですから、修理箇所である下地や躯体までが遠く、剥がす工賃が余計にかかるからです。
デメリット③ 耐震性が下がる
重ね葺き後は、新しい屋根材で覆われる分、家の重量が増えます。 そのため、建物にかかる負荷が増し、耐震性も下がります。
デメリット④ 新しい素材が金属系に限られる
前項の「耐震性が下がる」ことの対策として、家の重量増加を耐震面で問題のない範囲に抑えるため、最大限軽量な素材を使用する必要があります。
一般的な素材のなかでは金属系ものが圧倒的に軽いため、重ね葺き時につかえる素材も、「ガルバリウム鋼板」や「アルミ」など金属系ほぼ一択になります。
「ガルバリウム鋼板」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「【入門】ガルバリウム鋼板の全知識を公開!特徴・価格・勾配・選び方」
デメリット⑤ 瓦屋根には施工出来ない
既存部分に新しい素材を重ねて張りつけるという特性上、表面が波打っていて、固くて釘が通らない瓦屋根には、そもそも重ね葺きが施工できません。
デメリット⑥ 火災保険が下りない
火災保険の保険金は、風災や雪災で受けた損傷を「元の状態へ戻す工事」に対して下りるのが原則です。
そのため、新しい層が増える重ね葺きは、「元に戻す工事」ではないと判断され、保険金はまず下りないでしょう。
「火災保険を使った修理方法」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「火災保険のトラブルで屋根修理に失敗しない方法」
ここまで挙げてきたメリット・デメリットをもとに、「重ね葺き」と「葺き替え」を比較すると以下のようになります。
比較項目 | 重ね葺き | 葺き替え |
---|---|---|
施工費用 | 安い | 高い |
工期 | 短い | 長い |
アスベスト処理費用 | かからない | かかる |
断熱性・遮音性 | 向上が期待可 | 効果なし(新しい素材次第) |
下地や内部の異常 | 直らない | 直せる |
次の工事の費用 | 上がる場合あり | 変わらない |
耐震性 | 下がる | 変わらない(新しい素材次第) |
新しい素材の選択肢 | 金属系のみ | 自由 |
瓦屋根への施工 | 不可能 | 可能 |
火災保険 | まず下りない | 条件次第で下りる |
重ね葺きがおすすめできる場合、できない場合
メリット・デメリットの両面を検討した結果、屋根のリフォーム方法に「重ね葺きを選ぶのが妥当である場合」と、「重ね葺きを選ぶことのリスクが大きい場合」は以下のようになりました。
重ね葺きがおすすめな場合
以下に当てはまる場合は、重ね葺きがもっとも合理的な選択肢になります。
費用の安さを重視する
どうしてもリフォーム工事をする必要があるが、葺き替えができるほど予算がない場合や、工事費用の安さを最重要視する方には、重ね葺きが最適です。
アスベストが住宅に含まれている
今の屋根材にアスベストが含まれていて、割り増し撤去費用が支払えない場合も、撤去費用自体がなくせる重ね葺きが最適となります。
10~15年以内に、家を転居・解体する予定である
重ね葺きには、以後の工事費用の増大のリスクがありますが、10~15年以内に住まなくなる予定の建物であれば、それまでに再度メンテナンスをする可能性は低いでしょう。
住まなくなるまでの残りの期間だけ家がもてばいいのであえれば、重ね葺きを選ぶのも合理的です。
重ね葺きを選ぶべきでない場合
以下に当てはまる場合は、重ね葺きではリスクが大きいため、葺き替えでリフォームするほうあオススメです。
建物に雨漏りが起きたことがある
過去に雨漏りを起こしたことのある家は、下地や躯体に傷みが発生していると考えらます。
そのような家を重ね葺きでリフォームすると、気づかないうちに内部で腐食等が進行するおそれが増すため、おすすめできません。
同じ理由で、雨漏りの修理方法としても重ね葺きは避けるべきです。
将来的に増改築などの工事予定がある
重ね葺き後に別の工事をすることになった場合、分厚くなった部分を剥がすのに余計な費用がかかってしまいます。
地震でよく揺れる家である
重ね葺きでは、多少なりとも家の重量の増加が発生し、耐震性の低下が起こります。
地震のたびによく揺れる、揺れに敏感な家族がいる場合などでは、重ね葺きはおすすめできません。
スレート屋根や窯業系サイディングを使いたい
重ね葺きでは、使用できるのが金属系の建材に限られてしまいます。
そのため、希望する屋根材が決まっていて、それが金属系以外のものである方は、重ね葺きでは希望が叶いづらいため、向いていません。
重ね葺きを勧めてくる業者の本音と、その対策
ここまでの解説で、あなたに重ね葺きが向いているか、他の工事方法のほうが向いているかが、ご判断いただけたでしょうか?
どちらの場合でも、今接触している業者に決めるのはまだ早すぎるかもしれません。 というのも、重ね葺きばかりをプッシュする業者は、あまり顧客のことを考えていないと考えられるからです。
重ね葺きは業者にとって得が多い工事
実は重ね葺きは、リフォーム業者、なかでも板金業者にとっては非常に「おいしい」工事なのです。理由は以下のとおりです。
工期が短く、回転率が上げられる
重ね葺きのメリットに工事日数の短さを挙げましたが、これは業者にとっても「施工の回転率が良い」という旨味があります。
前述の工事金額を日数で割って1日あたりの売り上げ額を計算すると、屋根の重ね葺きは「30~36万円」です。
対して、屋根葺き替えの場合は「20~33万円」ですから、業者にとっては重ね葺きを勧めるほうが得ということになります。
金属系素材のほうが、利益率が高い
重ね葺きで使えるのは金属系の屋根材に限られるとご説明しました。
屋根リフォーム業者のうち「板金業者」にとっては、この金属系の建材が専門で、利益率も高い主力商品なのです。
板金業者にとっては、金属系以外の建材も選択肢に入る葺き替えや張り替えでは、高利益率商品を売り逃す可能性が生まれます。
そのため、重ね葺きが一番うれしい工事なのです。
重ね葺きを強く勧めるのは「顧客より利益が優先」な疑いあり
このように、重ね葺きは業者にとっても都合の良い工事だという本音が分かりました。
もしあなたがやりとりをしている業者があなたに、重ね葺きのデメリットをほとんど説明しなかったり、葺き替えという選択肢を示さなかった場合、その業者は顧客の利便性よりも自社の都合を優先する要注意業者である可能性が大いにあります。 そのような業者が提示する見積もり金額や、工事の品質が信用できるでしょうか?
とくに相手が板金業者である場合、慎重に判断する必要性は高まります。
悪い業者にひっかからないための対策
業者の提示した見積り金額に不安が残る場合は、どうすればよいのでしょうか?
そもそも、利益至上主義の業者や、悪徳リフォーム業者の対策は存在するのでしょうか?
「屋根修理の悪徳業者」について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
>>「屋根修理で詐欺にあわない!危険な業者を見抜く4つの方法」
「相見積もり」でセカンドオピニオンをとる
誰でも実践可能な対策として、見積もりを複数の業者からとることがあります。
リフォームは、定価というものが存在しない商品です。
同じ工事でも、家の大きさや使う建材によって費用がバラバラになるため、他人の場合があまりアテに出来ません。
そのため、適正金額をつかむためにも、最低3社からは見積もりを取り、提示金額や接客品質を比べることを強く推奨します。
相手が悪徳業者でなくてもメリットあり
同じリフォーム工事でも業者によって費用がバラバラなのは、悪徳業者が関わっていなくても同じです。業者によって、得意とする工事や、安く使える建材は、どうしても違うものです。
そのため、見積もりを複数とらずに契約業者を決めてしまうのは、損をする可能性が高いといえます。
「連絡相手が増えるのが大変」「心あたりの業者が他にない」場合は…
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ご活用いただければ幸いです。
もちろん、あなたに利用料金は一切かかりません。加えて、当ページから見積もり希望の連絡をいただいた方へのサービスとして、最終的に選んだ業者以外への気まずい「キャンセル連絡」も代行いたします。
以上、本記事の解説がリフォームのお役に立ちましたら幸いです。
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