屋根の面と面が合わさる境界線を「棟」と呼びます。
屋根のなかでも、傷みやすく修理機会の多い場所となっています。
今回は、屋根棟の傷みを発見したり、雨漏りなどをきっかけに、
・「屋根棟が壊れたが、修理にいくらぐらいかかるか知りたい」
・「屋根棟修理の見積もり金額が、適正かどうか知りたい」
・「保険で対応できるか知りたい」
という疑問にお答えできる解説をしていきます。
- 屋根棟の修理費用は、スレートか金属屋根ならば「約30万円」が目安
- 和瓦・洋瓦の屋根ならば「約25~40」万円が目安
- 「足場の要否」「棟瓦の段数」などで費用が変わる
- 風災による屋根棟の損傷は、多くの場合火災保険の対象
監修者:外装劣化診断士 小林 成光
600件以上の現地調査を実施する過程で得た専門性を生かし、日本発のネット見積もりシステムでビジネスモデル特許を取得。ヌリカエにて、外装工事の専門家として、顧客・加盟企業のサポート・コラムの監修に従事。
▼略歴・プロフィール |
「屋根棟」とは? 修理ってどんな工事になるの?
屋根の種類 | 棟の見た目(黄色い部分) | 素材・固定方法 | 修理方法 |
---|---|---|---|
棟板金 ・スレート屋根 ・金属屋根 用 |
・金属製の板金 ・釘で固定 |
・釘の打ち直し ・板金の交換 など |
|
棟瓦 ・和瓦屋根 ・洋瓦屋根 用 |
・陶器製などの瓦(棟専用の形) ・漆喰(しっくい)や針金で固定 |
・棟用瓦の積み直し ・漆喰の塗り直し ・瓦の交換 など |
「屋根棟」とは、屋根の面同士が接する辺のこと
屋根棟(やねとう)とは、屋根面が接する境界部分のことです。
屋根の頂上にあるものや、軒先に向かって下っていく「まっすぐで少し盛り上がった部分」がそうです。
屋根棟は、瓦が置けない凹凸部分からの水の侵入を防ぐはたらきがあります。
屋根棟は屋根のなかでも傷みやすく、修理機会の多い部分です。
特に20~30年以上前に建てられた住宅では、固定法が現在に比べ発達していなかったことから、修理の多い箇所と言われています。
1.2 屋根棟は「板金」と「瓦」の2種類。修理方法も異なる
屋根棟は、屋根の材質の種類によって2つ素材に分かれ、修理時の工事内容も変わります。
ご自宅の屋根が「金属」「スレート」の場合は、棟は金属製の「棟板金(棟包み板金)」と呼ばれるものが使われています。
棟板金の修理は、固定に使われている釘の打ち直しや、傷んだ板金の交換などが行われます。
棟板金は薄い金属板であるため、広い範囲の交換になっても比較的費用が安く、工期も短めで済みます。
屋根材が日本風や洋風の「瓦敷き」ならば、棟も同じ材質を使った棟瓦で出来ています。
瓦屋根の棟の修理は、ズレた棟瓦の積み直し(「棟の取り直し」と言われる)や、固定に使われている漆喰の再塗装などが行われます。
日本の住宅の屋根材は「スレート」か「金属」が約6割を占めるので、ほとんどの方は「棟板金」が使われているでしょう。
また、屋根瓦の種類と判別については、こちらの記事をご覧ください。
棟の種類 | 分類 | 屋根瓦の種類 |
棟板金 | 金属 | トタン |
---|---|---|
ガルバリウム鋼板 | ||
ジンカリウム鋼板 | ||
ステンレス | ||
銅 | ||
スレート | (化粧)スレート | |
コロニアル | ||
カラーベスト | ||
厚型スレート | ||
和瓦・洋瓦 | 和瓦・洋瓦 | 陶器瓦 |
コンクリート瓦 | ||
モニエル瓦 | ||
アスファルトシングル | 例外。棟材と屋根材の区別がないため、同じ「アスファルトシングル」 |
屋根棟の修理・メンテナンスのサインは? 屋根棟が傷むと起こるトラブルは?
棟の種類 | 周期目安 | 修理・メンテナンスのサイン | |
---|---|---|---|
棟板金 ・スレート屋根 ・金属屋根 用 |
約15年 | 通常 | ・色あせ、サビがある ・風で動く音がする |
緊急 | ・板金がめくれている
・板金が飛んでなくなっている |
||
棟瓦 ・和瓦屋根 ・洋瓦屋根 用 |
約20~30年 | 通常 | ・瓦がズレている ・風で動く音がする ・漆喰が剥がれ、中の土が見えている |
緊急 | ・瓦が割れている ・棟が崩れている・瓦が飛んでなくなっている |
2.1 「棟板金」の修理タイミング
金属屋根とスレート屋根用の「棟板金(棟包み板金)」のメンテナンスは、約15年おきが目安です。作業内容は、固定が甘くなった釘の打ち直しや、腐食した板金そのものの交換が主になります。
棟板金がめくれている場合、吹き飛んでなくなってしまっている場合は、至急対応が必要です。
そのままにしておくと、屋根の下地に雨水が侵入し、雨漏りが発生したり、建材が腐ってしまったりします。
放置すると、屋根瓦と下地の全交換が必要になり、費用が200万円前後かかってしまう場合もあります。
2.2 「瓦棟」の修理タイミング
和瓦・洋瓦屋根用の「棟瓦」は、約20~30年おきのメンテナンスが目安です。作業内容は、接着力がなくなった漆喰の塗り直しや、瓦のズレの調整、損傷した瓦の交換が主になります。
棟瓦が崩れてしまっている場合や、瓦が吹き飛んでしまっている場合は、至急修理を依頼してください。
放置すると、棟板金の場合と同様、雨漏りや建材の腐食が起こります。
進行が進むと、「葺き替え」という瓦と下地の全交換が必要になり、工事に200万円前後の費用が発生してしまいます。
屋根葺き替えについて詳しく知りたい方は、下記記事もご覧ください。
屋根棟の修理費用は? 価格の差はどこに出る?
屋根棟の修理で、実際にどのくらいの費用がかかるのか、「棟板金(棟包み板金)」と「棟瓦」に分けて解説します。
なお、試算には一般的な30坪の住宅をモデルにしました。
3.1 棟板金の修理費用は「30万円」が目安
費目 | 単価 | 数量 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
足場代 | 750 | 200(㎡) | 150,000 | ・高所作業の補助用に設置 ・屋根の勾配や作業内容によっては不要なことも |
養生代 | 200 | 200(㎡) | 40,000 | ・足場や周辺部分の保護 |
棟板金の交換 | 5,000 | 12(m) | 60,000 | ・施工範囲「12m」と設定 |
業者 諸経費 | – | – | 25,000 | ・工事費の10%と設定 |
合計 |
– | – | 275,000 |
金属屋根かスレート屋根で使われる棟材「棟板金」の修理工事は、多くが「棟板金の交換」です。
費用は、交換が必要な棟板金の長さによって変わります。
修理費の目安は、足場を使用し、棟の交換長を12メートルとした場合で約30万円前後となります。
棟板金の修理費を変える要素:「足場の要否」「板金の長さ」
・足場の要否 実は、修理費用のうちもっとも多くを占めるのが「足場代」です。緩い勾配の屋根で、工事範囲も少ない場合は足場が不要なこともありますが、
安全性や作業の正確性のためにも、足場は原則的に必要なものです。
つい「足場はナシでお願いします」と業者さん頼みたくなってしまいますが、業者の安全を軽視していると受け取られる場合もあるので、オススメできません。
費目 | 単価 | 数量 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
棟板金の交換 | 5,000 | 12(m) | 60,000 | ・施工範囲「12m」と設定 |
業者 諸経費 | – | – | 6,000 | ・工事費の10%と設定 |
合計 |
– | – | 66,000 |
材料費・工事費で「1メートルあたり5,000円」が目安となります。
板金を交換する長さが増えれば、それだけ工事費用も高くなります。
本章にある表の試算では、交換する棟板金が長さ「12メートル」とした場合で27万5千円でしたが、
長さを倍の「24メートル」にすると33万5千円になります。
一方で、屋根の葺き替えの場合は200万円前後の費用がかかる工事です。棟板金の単価をおさえるために屋根全体の工事をするのは、現実的ではありません。
3.2 棟瓦の修理費用は、「漆喰の補修」で25万円~、「棟瓦の積み直し」で40万円~が目安
和瓦・洋瓦屋根の場合は、傷みの程度により「漆喰の塗り直し」のみで済む場合と、それに「棟の取り直し」が加わる場合の2通りがあります。
「棟の取り直し」とは、棟瓦に崩れている箇所がある場合などに、瓦を積み直す作業のことです。
費目 | 単価 | 数量 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
足場代 | 750 | 200(㎡) | 150,000 | ・高所作業の補助用に設置 ・屋根の勾配や作業内容によっては不要なことも |
養生代 | 200 | 200(㎡) | 40,000 | ・足場や周辺部分の保護 |
漆喰の塗り直し(片面)基本料金 | 27,000 | 1 | 27,000 | ・「1~5m」までは同一料金 |
漆喰の塗り直し(片面)6m以降 | 3,000 | 7(m) | 21,000 | ・1mにつき3,000円 |
業者 諸経費 | – | – | 23,800 | ・工事費の10%と設定 |
合計 |
– | – | 261,800 |
費目 | 単価 | 数量 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
足場代 | 750 | 200(㎡) | 150,000 | ・高所作業の補助用に設置 ・屋根の勾配や作業内容によっては不要なことも |
養生代 | 200 | 200(㎡) | 40,000 | ・足場や周辺部分の保護 |
漆喰の塗り直し(両面)基本料金 | 54,000 | 1 | 54,000 | ・「1~5m」までは同一料金 |
漆喰の塗り直し(両面)6m以降 | 6,000 | 7(m) | 42,000 | ・1mにつき6,000円 |
棟の取り直し 基本料金 | 38,000 | 1 | 38,000 | ・「1~5m」までは同一料金 |
棟の取り直し 6m以降 | 8,000 | 7(m) | 56,000 | ・1mにつき8,000円 |
業者 諸経費 | – | – | 38,000 | ・工事費の10%と設定 |
合計 |
– | – | 418,000 |
「漆喰の塗り直し」「棟の取り直し」ともに、施工長5メートルまでの基本料金と、それを超えた分の料金が1メートルごとにかかるのが一般的です。
修理費の目安は、棟板金の場合と同様に、足場を使用し、修理する棟の長さを12メートルとした場合で計算しました。
棟瓦の修理費を変える要素:「足場の要否」「漆喰の塗り直しが片面か両面か」「棟瓦の段数」
・足場の要否 修理費用の半分近くを占めるのが「足場代」です。屋根の勾配や、工事範囲によっては足場が不要なこともあります。
しかし、安全性や作業の正確性のためにも、足場は原則的に必要なものです。
費用の大きさから、つい業者さんに「足場はナシでお願いします」言いたくなってしまいますが、業者側の心証などを考えてもオススメはできません。 ・漆喰が片面か両面か
【図:瓦屋根の棟の「漆喰」部分】
漆喰は、棟瓦の固定のためと、屋根面との隙間を埋めるために使われています。
棟の左右両側に塗られているものなので、両面の塗り直し費用は、片面の場合の倍になります。
片面の作業費は、5メートルまでが27,000円。
それを超えると1メートルにつき3,000円が目安になります。
一般的な、のし瓦3,4段の積み直し(「棟の取り直し」)の場合で、5メートルまでが38,000円。
それを超えると1メートルにつき8,000円が目安になります。
風災でおこった損害は「火災保険」で直せることも
補償範囲の例 | 保証対象の例 | 保険料 | 備考 | |
住宅火災保険 | 家屋・家財 | 火災、落雷、破裂・爆発、 風災、雪災、雹災 |
低 | 自己負担額の 設定によっては 保険金がおりない ケースも |
---|---|---|---|---|
住宅総合保険 | 家屋・家財 | 火災保険の補償対象
+ |
中 | 同上 |
オールリスク タイプ |
家屋・家財 + 外灯・ベランダ など |
住宅総合保険の補償範囲
+ |
高 | 少額の損害も 実費で補償など、 自由度が高い |
屋根棟の損傷が、台風などの風災が原因である場合には、多くの場合で加入している火災保険で対応することができます。
火災保険には3つのタイプがあり、補償の内容も保険会社によって様々です。
その理由は、施工業者にとっては、保険が関わると手続きが増える一方で、売上が増えるわけではないからです。
屋根棟の修理を検討中の方は、ご自宅が火災保険に加入しているか、保証内容や免責金額などを確認することをオススメします。
屋根修理と火災保険について詳しく知りたい人は、下の記事をご覧ください。
ほかに、火災保険に「地震火災費用特約」を付帯する方法もありますが、こちらは限度額があり、損害額すべてをカバーできるものではありません(「1敷地ごとに300万円」など)。
地震保険は、単独で入ることができず、主契約となる火災保険と一緒に入ります。火災保険の補償内容と同時に、地震保険の加入有無も確認してみてください。
まとめ:屋根棟の修理費用を抑えるために「相見積もり」を
「屋根棟の修理工事と費用」について、内訳なども交えてご説明してきました。
現在、屋根に関わる工事の修理費用は、予測することが非常に難しくなっています。
同じ坪数の家でも、屋根の形状や傾斜によって面積が大きく変わるため、家の大きさが工事費用の目安にならないからです。
また、部分修理の場合でも、業者の得意・不得意により、同じ工事でも金額が倍近く変わることも珍しくありません。
提案された修理内容がベストな選択肢であるかは、素人には判断がつけられないでしょう。
そこで、できるだけ複数の業者から相見積もりを取り、費用や工事内容に一番納得のいく業者を選ぶことで、コスト的にも効果的にも最適な工事を行うことができます。
また屋根の修理業者は、塗装業者ではなく屋根専門の業者になります。
棟板金の工事は「板金業者」、陶器やセメントの棟なら「瓦葺(かわらふき)業者」が依頼先になります。
本記事が、屋根棟のリフォームを検討中の方々のお役に立てば幸いです。