既存の住宅では最も多く利用されている「屋根瓦」は、種類も豊富にあり、耐久性や性能もバラバラです。
自宅にあった屋根瓦を選定するためには、各屋根瓦の特徴から耐用年数、参考価格などを比較することが大切です。
そこで本記事では、住宅用の屋根瓦の外見の画像とともに屋根瓦の種類について特徴や耐用年数を比較し、基本的なメリット・デメリットなどを解説していきます。
![]() |
監修者:外壁劣化診断士 小林 成光
600件以上の現地調査を実施する過程で得た専門性を生かし、日本発のネット見積もりシステムでビジネスモデル特許を取得。ヌリカエにて、外装工事の専門家として、顧客・加盟企業のサポート・コラムの監修に従事。
▼略歴・プロフィール |
屋根瓦とは?
屋根瓦とは、文字通り「瓦」を屋根材として利用しているものです。
粘土やセメントを焼き固めて作られるのが特徴で、耐久性や遮音性に優れています。歴史は古く、平城京や平安京にも用いられるなど、1,000年以上の歴史があります。
-
屋根瓦の構造は「本体(瓦)+下地材+防水層」で成り立っており、それぞれの役割は以下の通りです。
- 本体(瓦):屋根を覆う主材料で、耐久性やデザイン性を担う
- 下地材(野地板):瓦を支えるためのベースとなる板材
- 防水層(ルーフィング):瓦の隙間からの雨水侵入を防ぐ役割
屋根瓦のメリット
屋根瓦のメリットには、主に以下の4つが挙げられます。
屋根瓦のメリット
- 耐久性が高い
- 断熱性・遮音性に優れている
- 瓦ならではのデザイン性
- 部分的な修理が可能
耐久性が高い
屋根瓦の最大のメリットは、耐久性の高さにあります。
瓦を1度焼いているため紫外線の影響を受けにくく、色褪せや腐食も起こりにくく、スレート屋根のようにひび割れや、金属系素材のように錆が発生するリスクも少ないのが特徴です。
実際に能登半島地震ではガイドライン工法に基づいて施工された屋根瓦を扱っている住宅では、被害が確認されなかったという調査報告も出ています。
変形や劣化するスピードが遅いため、塗装が不要な屋根瓦もあります。
断熱性・遮音性に優れている
屋根瓦は断熱性・遮音性に優れているのもメリットです。
なぜなら下地と瓦の間に空気の層ができるため、外の熱を直接伝えにくい構造になっているからです。
屋根瓦には断熱性があるため、夏は涼しく冬は暖かくを実現できます。
また、外部の雨音や騒音を効果的に吸収するため、他の屋根材と比べ遮音性にも優れています。
瓦ならではのデザイン性
屋根瓦はデザインが豊富にあり、好みにあわせた瓦を選べるのも魅力的な点です。
和のテイストはもちろんのこと、オレンジ色やブラウンといった暖色系の屋根瓦もあるため、洋風なデザインも表現できます。
自宅の屋根を個性のあるおしゃれな屋根にしたい場合は、屋根瓦が最適です。
部分的な修理が可能
屋根瓦は一枚ずつ取り外せるため、破損が起きた箇所だけを部分的に修復することが可能です。
屋根材によっては部分修理が不可能なものもあるため、破損個所のみを修理できるのはコスト面でもメリットになります。
また、手間も少ないため容易に修復が行えます。
屋根瓦のデメリット
屋根瓦のデメリットには、主に以下の2つが挙げられます。
屋根瓦のデメリット
- 耐震性が低い
- 初期費用が高い
耐震性が低い
屋根瓦は他の屋根材よりも重さがあるため、屋根に負荷がかかり、構造部の負担も大きくなるのがデメリットです。
とくに数十年前に建てられた住宅に設置している屋根瓦は、現在の耐震基準とは異なるため、地震の際には注意が必要です。
現在の耐震基準で設置されている屋根瓦は、瓦を釘で固定する設計で安全とされているますが、一度確認しておくとよいでしょう。
初期費用が高い
初期費用の高さもデメリットのひとつです。瓦は伝統的な建材で、製造過程や技術にも高度な工程が必要とされます。そのため、瓦の材料費や施工費が他の屋根材より高い傾向にあります。
初期費用は高いですが、耐久性・メンテナンス性も考慮したトータルコストで考えると、ほかの屋根材よりもコストパフォーマンスは低くありません。
和瓦と洋瓦の違いについて比較
屋根瓦には大きく分けて「和瓦」と「洋瓦」があります。
和瓦は日本の伝統的な屋根瓦となっており、波を打ったような形が特徴です。一方で洋瓦はヨーロッパを中心に使われていた瓦でカラーバリエーションが豊富なのが特徴です。
それぞれの違いは、以下の表の通りです。
瓦の種類 | 特徴 | 代表的な瓦 | 主な用途 | 形状 | 耐久性 |
---|---|---|---|---|---|
和瓦![]() |
重厚感がある日本の伝統的なデザインな瓦 | いぶし瓦 釉薬瓦 |
和風住宅 神社仏閣 城 |
J瓦 | 50~100年 |
洋瓦![]() |
ヨーロッパ風で軽量に設計された瓦 | 粘土瓦 セメント瓦 金属瓦 |
洋風建築 モダンな住宅 |
S型 F型 M型 |
20~50年 |
和瓦
日本の伝統的な屋根材である和瓦は、粘土を原料に焼き上げられた瓦です。
粘土を高温で焼成するため、耐久性が高いのが特徴です、また、空気が入りやすいように波を打ったようなカーブがある形状でもあるため、断熱性にも優れており、夏の暑さを室内に入りにい構造となっています。-
愛知の三州瓦、兵庫の淡路瓦、島根の石州瓦などが産地として有名で、各産地ごとに形状や色などが異なります。
洋瓦
洋瓦とは西洋に由来をもつ瓦のことです。
和瓦と比較して凹凸の大きさや、丸みがある見た目が異なることや、カラーバリエーションが豊富なことが特徴です。洋風な家を建築する際や、個性的でおしゃれな家にしたい場合に適しています。
屋根瓦の7種類を徹底比較
▼瓦の画像や名称をクリックすると、それぞれの解説にジャンプします。
屋根瓦の種類 | 特徴 | 耐用年数 | 参考価格/㎡ |
---|---|---|---|
![]() いぶし瓦 |
銀黒色。一般的な日本瓦のイメージ | 50年以上 | 11,000~13,500円/㎡ |
![]() 釉薬瓦 |
黒・青・緑など多彩。表面がガラス質で光沢が特徴 | 50年以上 | 9,500~12,000円/㎡ |
![]() 窯変瓦 |
オレンジ・赤・茶・濃茶色。一枚ずつ色合いや濃淡が異なる | 50年以上 | 11,550~15,500円/㎡ |
![]() セメント瓦 |
灰色。他の瓦と異なり耐用年数が短く、塗装が必要 | 20~30年 | 5,000~10,000円/㎡ |
![]() |
セメントを主成分に、樹脂や繊維を混ぜて補強した軽量な屋根瓦 | 約40年 | 8,000円/㎡ |
![]() 軽量セメント瓦 |
セメント瓦をさらに軽量化 | 約20年 | 9,200円~/㎡ |
![]() プラスチック瓦 |
重量が陶器瓦の6分の1。耐震性がもっとも高い | 20~30年 | – |
屋根瓦の種類① いぶし瓦
いぶし瓦は、最終工程で煙でいぶすことにより、表面を炭素膜で覆われた瓦のことです。
外見はにぶいツヤのある銀色をしているのが特徴です。釉薬によるコーティングよりも渋い光沢となっており、和風のデザインに最適な屋根瓦となっています。
いぶし瓦の耐用年数は50年以上あり、破損するまで繰り返し使用可能です。
なお、ヒビ、欠け等が発生した場合は交換が必要となります。
いぶし瓦の施工費用
瓦の施工費用は、屋根の形状と使う瓦の形状(デザイン)によって変わります。
いぶし瓦の場合は、切妻屋根、寄棟屋根でそれぞれ以下の表の通りです。
瓦の形状 | 屋根の形状 | |
---|---|---|
切妻屋根 | 寄棟屋根 | |
和形瓦(J形) | 11,000円/㎡ | 12,500円/㎡ |
改良洋形瓦(S形) | 11,500円/㎡ | 13,000円/㎡ |
平板瓦(F形) | 12,600円/㎡ | 13,500円/㎡ |
いぶし瓦の施工例
![]() |
![]() |
兵庫県南あわじ市内の一戸建ての屋根をS形のいぶし瓦で葺いた例。
洋形といっても日本風に仕上がらないわけではなく、ギンクロ色の重厚さ、甍の波など伝統的な日本瓦の特徴が感じられる。
![]() |
![]() |
兵庫県内南あわじ市の一般住宅のF形いぶし瓦の施工例。
いかにも日本瓦らしい外見ではないので、周囲の家からも浮きづらい仕上がり。
京都の美観地区内にある住宅に施工されたJ形のいぶし瓦の施工例。
数寄屋造りの形状が現代風にアレンジされている。
屋根瓦の種類② 釉薬瓦
釉薬瓦(別名:陶器瓦)は、表面がガラス質でコーティングされており、つやつやな光沢があるのが特徴です。
また、釉薬によって着色できるため、カラーバリエーションも豊富にあります。表面の小さな孔が釉薬で塞がれているため、耐水性にも優れています。
釉薬瓦の耐用年数は50年以上あり、破損するまで繰り返し使用可能です。なおヒビ、欠け等が発生した場合は交換が必要となります。
釉薬瓦の施工費用
釉薬瓦の施工にかかる費用は、切妻屋根、寄棟屋根でそれぞれ以下の表の通りです。
いぶし瓦の施工費用よりも若干安いのが特徴です。
瓦の形状 | 屋根の形状 | |
---|---|---|
切妻屋根 | 寄棟屋根 | |
和形瓦(J形) | 9,500円/㎡ | 11,500円/㎡ |
改良洋形瓦(S形) | 10,500円/㎡ | 12,000円/㎡ |
平板瓦(F形) | 9,600円/㎡ | 10,000円/㎡ |
釉薬瓦の施工例
兵庫県南あわじ市内の戸建住宅にS形釉薬瓦を使用した例。
無釉の瓦にはない青緑色のカラーリングが実現。
兵庫県神戸市内の連棟戸建て住宅にJ形釉薬瓦と使用した例。
隣り合った棟同士で瓦の色をイエローで揃えているが、若干色味を変えることでメリハリがついた好例。
屋根瓦の種類③ 窯変瓦
窯変瓦は、焼成中に窯に送り込む酸素の量を変えながら焼き上げた瓦のことです。
外見は、灰色に近いものから明るい赤茶色まで幅があり、かつ1枚ごとにバラつきがあるのが特徴です。
窯変瓦も、他の陶器系瓦と同様に50年以上の耐用年数があります。
破損するまで繰り返し使用可能ですが、窯変瓦にヒビ、欠け等が発生した場合は交換が必要です。
窯変瓦の施工費用
窯変瓦の施工費用は、いぶし瓦のものに準じますが、窯変瓦を屋根に葺く際には1枚ごとの色味の個性を計算してバランス良くなるよう並べる手間がかかるため、5~15%ほど工賃が高くなることがほとんどです。
窯変瓦の施工例
![]() |
![]() |
兵庫県洲本市の一般住宅の屋根にJ形の窯変瓦を葺いた例。
1枚ごとに濃淡が微妙に異なる窯変瓦が、遠近どちらから見ても美しく良く見えるよう計算されて配置されている。
![]() |
![]() |
上の例よりもややモダンなデザインの住宅の屋根に施工されたS形の窯変瓦。
近づいた写真をみると、瓦1枚のなかにもグラデーションがかかっているものがいくつか確認できる。
兵庫県・西宮市内のモデルハウスの屋根に葺かれたF形の窯変瓦。
黄色や茶色を多用した洋風な外壁ともよくマッチしている。
屋根瓦の種類④ セメント瓦
セメント瓦は、粘土瓦に比べると形が揃っていて施工しやすいのが特徴です。
一方で、美観の維持のために塗装メンテナンスが欠かせないことや、古くなると急速に劣化する特徴もあります。
スレート屋根材が登場してからは価格的・性能的にあえて選ぶ理由がない素材とされています。
セメント瓦の耐用年数は使用開始から20~30年です。コケや退色など美観の問題が発生した場合は塗装、ヒビ、欠け等が発生した場合は瓦の交換が必要となります。
セメント瓦の施工費用
セメント瓦の施工費用は、概ね5,000~10,000円/㎡が見込みになります。
屋根瓦の種類⑤ 樹脂繊維セメント瓦
樹脂繊維セメント瓦は、セメントを主成分に、樹脂や繊維を混ぜて補強した軽量な屋根瓦です。
樹脂繊維セメント瓦の耐用年数は約40年で、割れにくく耐久性が高いことが特徴です。
さらに粘土瓦の約1/2〜1/3の重さで、耐震性を向上できることから、近年人気が高まっている屋根瓦になります。
樹脂繊維セメント瓦の施工費用
樹脂繊維セメント瓦の施工費用は、約8,000円/㎡が目安となっています。
屋根瓦の種類⑥ 軽量セメント瓦(防災瓦)
軽量セメント瓦(防災瓦)は、伝統的な瓦の重厚感を感じるデザインをなるべく維持したまま、耐震性を高めた屋根瓦です。
代表的な製品として、ケイミューの「ROOGA(ルーガ)シリーズ」が知られています。
軽量セメント瓦の耐用年数は約20年です。使用開始から約10年で塗装、約20年の経過もしくは全体にヒビ等が発生した場合は葺き替えが必要となります。
軽量セメント瓦の施工費用
軽量セメント瓦の代表製品であるROOGA(ルーガ)シリーズの実勢価格は、9,200円/㎡が目安となっています。
軽量セメント瓦の施工例
いぶし瓦の外見に近い「ルーガ雅(みやび)」を使った一戸建てです。
陶器というよりも天然石に近い、重厚感・ランダム感のあるイメージの「ルーガ鉄平(てっぺい)」を使用した一戸建てです。
屋根瓦の種類⑦ プラスチック瓦
プラスチック瓦は、FRP(繊維強化プラスチック)などの樹脂素材を瓦状に成形した屋根材です。
最大の特徴は陶器瓦の6分の1という軽量さからくる耐震性の高さです。素材がプラスチックであることから、メンテナンス頻度はやや高くなる傾向にあります。
プラスチック瓦の耐用年数は20~30年が目安です。耐用年数を迎える前でも、ヒビ・欠け等が発生した場合は交換ないし葺き替えが必要となります。
プラスチック瓦の施工例
伝統的な和瓦の形状に近い「カルカ・ルーフ 天平(てんぴょう)」を使用した施工事例です。
住宅の主な屋根材の種類や特徴については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせて確認してみてください。
屋根瓦の工法を比較
屋根瓦の施工方法には「湿式工法(土葺き工法)」と「乾式工法(引掛け桟瓦葺き工法)」が挙げられます。
それぞれの工法の特徴や重量の違い、施工期間の違いで比較していきます。
工法 | 工法の特徴 | 重量 | 施工期間 |
---|---|---|---|
湿式工法(土葺き工法) | 屋根の下地の上に葺き土やモルタルを敷き詰め、その上に瓦を固定する工法 | 80kg/㎡ | 1ヶ月程度(目安) |
乾式工法(引掛け桟瓦葺き工法) | 屋根の下地の上に防水シートを敷き詰め、その上に釘で瓦を固定させる方法 | 50Kg/㎡ | 湿式工法よりも短い |
湿式工法(土葺き工法)
湿式工法とは、屋根の下地の上に葺き土やモルタルを敷き詰め、敷き詰めたうえに瓦を固定させる工法のことです。
葺き土とは漆喰を水や砂とまぜたもので、日本の伝統的な工法のひとつです。大量の土を利用するため、屋根の重量が大きくなってしまいますが、その分安定性に優れています。
さらに湿式工法は職人の技術力に依存する部分が大きく、施工期間も1ヶ月程度を見込む必要があるため、現在では主流の工法ではなくなってきています。
乾式工法(引掛け桟瓦葺き工法)
乾式工法とは、屋根の下地の上に防水シート(アスファルトルーフィング)を敷き詰め、その上から釘で瓦を固定させる工法のことです。
湿式工法とは異なり、葺き土を利用しないため屋根の重量は軽くなるのが特徴です。屋根の重量が軽くなることで、耐震性を向上させることにもつながります。
さらに施工期間も湿式工法よりも短く済み、現在では主流の工法になっています。
ガイドライン工法とは
ガイドライン工法とは、平成13年に制定された「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に基づく施工方法のことです。
阪神大震災の経験から、地震や台風に強い瓦屋根を実現させることを目的として制定されました。科学的データに基づいた設計となっているため、耐震性に優れ、新幹線並みの強風でも瓦が飛ばないようになっています。
-
2024年1月の能登半島地震では、ガイドライン工法で施工された屋根は被害を受けていないことが国土交通省より発表されています。
屋根瓦についてまとめ
耐用年数が高い瓦ですが、劣化症状が見られる場合にはすぐに対処することが大切です。
種類や特徴を押さえておき、屋根のメンテナンスなどを行う際には本記事を参考にしてみてください。
なお、屋根工事は専門性の高い工事になるため、工事を行う際は専門家への相談がおすすめです。
ヌリカエでは、全国2500社以上の加盟店の中から、屋根瓦に詳しい優良業者に絞ってご紹介することが可能です。
相談は無料ですので、ぜひ一度問い合わせてみてください。